大阪高等裁判所 昭和54年(う)786号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
弁護人と被告本人に共通の論旨は、戸別訪問を禁止している公職選挙法一三八条一項及び文書頒布を制限している同法一四二条の各規定は憲法二一条に違反するのに、原判決が違反しないと判断したのは誤りである、というのであり、弁護人のその余の論旨は、かりに右各規定そのものが憲法二一条に違反しないとしても、これらを本件のような実質的弊害のない行為にまで適用することは憲法二一条に違反するので、このような行為には右各規定は適用されないものと解釈すべきであるのに、原判決がこれらを本件に適用したのは誤である、というのである。
そこで検討するのに、公職選挙法による戸別訪問及び法定外文書頒布の禁止は、それらに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしたものではなく、それらの行動に伴う弊害の防止をねらいとしたものであつて、全候補者に関して平等に課されているのであるから、禁止の目的と禁止の対象行為との間に合理的な関連性があり、かつ、禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失することがない限り、憲法二一条に違反するものということはできない(最高裁判所昭和四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁参照)。そして、戸別訪問を放任するときは、これに伴う買取、威迫、利害誘導などの行為がより容易に行われうることとなり、文書頒布を無制限に許容するときは、選挙運動に不当な競争が生じることとなり、ともに選挙の自由公正をそこなうおそれを増大させる結果となるので、戸別訪問及び法定外文書頒布の禁止と禁止目的である選挙の自由公正の保持との間には合理的な関連性があることは否定すべくもない。また、戸別訪問及び法定外文書頒布の禁止は、数ある選挙運動手段のうちの特定手段の制約にとどまり、選挙運動の本旨を没却するものとは認められないから、前記のような弊害を防止するためこれを全候補者に対して一律平等に課することとしても、本末顛倒の措置であると断ずることはできず、したがつて、禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失しているとはいえない。そうしてみると、前記各禁止規定は、その文言どおりに解釈適用しても、憲法二一条に違反するものではない(公職選挙法一三八条一項に関しては、最高裁判所昭和二五年九月二七日大法廷判決・刑集四巻九号一七九九頁、同昭和四四年四月二三日大法廷判決・刑集二三巻四号二三五頁、同法一四二条に関しては、同昭和三〇年四月六日大法廷判決・刑集九巻四号八一九頁、同昭和三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五六一頁、同昭和四四年四月二三日前記大法廷判決参照)。原判決には所論の違法はなく、論旨はいずれも理由がない。
(瓦谷末雄 香城敏麿 鈴木正義)